みのる君が東京に住んでいた頃、1ヶ月に給料の3倍も呑んでいた時期があった。荒んでいた訳ではないが、毎晩のように友達を誘っては何軒もの店をはしごしていた。
そんな或る日、たまたまその日は同郷のリョウさんと新宿で呑んでいた。もう一軒、もう一軒と機嫌よく呑み、談じ、コマ劇場の前を歩いていると、向こうから二人連れの若い女性がやってくる。大勢の通行人で賑わう新宿の街だけれど、たまたまこの二人連れが目に入ったのだろう。女性と呑むのも良いね。リョウさんとみのる君は彼女等を誘って喫茶店に入った。それから2,3軒はしごして呑んだかな、結構、4人は意気投合したね。楽しく呑んで、そして、あっさりと別れた。別れ際に一応お互いの連絡先を交換しておいた。又機会があったら呑もうね。
みのる君の派手な浪費が過ぎて、とうとう都落ちとなってしまった。あちこちの友人に借金を残して東京を離れる仕儀となった次第。京都から帰省途中の東海ニ君がみのる君を励ましに井の頭に住むみのる君を訪ねた晩、リョウさんも誘って新宿で呑んだ。せっかくだから、以前知り合った彼女等も呼んでお別れパーティでもしよう。なんてことになってね。連絡すると、二人連れの一人は仕事の都合で来られないって云うじゃん。実は来られない子の方をリョウさんもみのる君も気に入っていたけれど、今更誘っておいて止めるのも失礼だし、予定通り新宿で落ち合うことになった。
当時みのる君は八代って飲み屋の女性に入れあげていてね(借金の膨らんだ要因でもあるけれど)、パーティの前にちょっと顔を出して来るなんて云って、リョウさんと海ニ君を残して飲み屋へ行ってしまう始末。八代にさよならして戻って来ると、呼び出した相方の彼女も来ていて、男三人、女一人でささやかなお別れパーティとなった。
やがて都落ちしたみのる君が、翌年、さよならパーティに来てくれた彼女に年賀状を出している。
龍が天に昇って凧となる
糸が切れたら気儘ながらも
切れぬ浮世の未練凧
今年もふわりと奴凧
風に任せて何処へ飛ぶ
以後、借金返済の苦闘の生活を余儀なくされたみのる君は、めったに上京することもなく、長い月日を無為の内に過ごしていった。
9年後の或る日、途切れていた物語が突然に再開。みのる君とさよならパーティした彼女が再会。みのる君の気宇壮大、意味不明瞭の年賀状が彼女の心の片隅に留まっていたみたい。一本の電話から物語が急展開して3ヶ月後には結婚式さ。披露宴の司会進行はリョウさんが受け持ってくれた。それからは、夫唱婦随(むしろ婦唱夫随)の人生を送っている。
以上がみのる君とカミサンの出会い。これも人生さね。こんな出会いと再会って、あまり聞かないと思う。たった一枚の年賀状もおろそかには出来ない(ナンパも怖い)と云う教訓めいたお話でもある。
職場や学校等、手近な所で伴侶を見付ける場合も結構多い中、まるで接点のない関東出身のみのる君と甲斐出身のカミサンの例は異色かも知れない。
ちなみに、結婚後、みのる君は呑みに出ることは(お付き合い以外)ほとんど無くなってしまった。つまり、すっかり平穏の家庭に馴染んでしまった(カミサンに取り込まれてしまった)訳さ。
蛇足ながら、東京時代の借金は結婚前に完済していたが、結婚資金は二人とも全額借金(両家の親の支援はなし)。稼ぎの良かったカミサンは早々に返済が終わったが、みのる君はしばらく後まで返済に追われていた。
ようやく借金が終わった頃に、今度は家を建てようと云う騒ぎが持ち上がって、再び莫大な借金を背負い込む羽目に陥ってしまった。しかも土地購入代金と建設資金全額借金と云う大胆さ(預金が全くゼロでも茶室付きの建坪40坪超の家が建つと云う事例だぜ)。
未だに返済が続いており(ようやく先が見えてきたけれど)、みのる君はこのまま借金人生で終わりそうだ(本人はその生き方自体が「文学的」だと称している)。一応、入金の当てはあるけれど、なかなか思うようには入ってこないのが現状。もっとも、入金の当てが宝くじだけに当てにはならないけれど…。