子供時代は映画館通い
みのる君が子供の頃は毎週のように映画館に通っていた。親父が新聞の映画評論を担当した時期もあってか、タダで入場出来る券(つまり招待券だね)を沢山貰って来る。親父は市内の映画館をフリーパスで入れたみたい。だから、券が余ってしまう。いきおい家族が狩り出されて消化作業さ。とは云え、小さな子供は何度通っても入場無料だから、お袋がせっせと使うしかない。毎回、入口の切符を買う長蛇の列を尻目にさっさと館内に入っていけるのは、案外、快感だったな。開館一番に入って、一番気に入った椅子に座る。それから、気が向けば二本立て、三本立ての映画を2回も3回も見てからご帰還さ。勿論、弁当持参。映画館に着く前にパン屋で昼食を調達。一人で行く場合が多かったが、幼い頃はきょうだい揃って映画館通い。時にはお袋に連れられて。あるいは両親に引率されて。親父は見終わると、お袋や子供たちを残して他の映画館へ行ってしまう。思えば、親父も若かったのだろう。
一年52週の週末の大半を映画館で費やしていた。だから、年間100~150本、小学校半ばから中学卒業までの間で、千本以上を見たと思う。映画全盛期。クライマックスでは館内に拍手が沸き起こる。掛け声も出る。評判の良い映画は立ち見も出て座席間の通路までも一杯状態。休憩時間のトイレもままならない混雑ぶりだった。子供の座っている席を横取りしようとする輩もいた。図々しい大人たちに閉口したことも数知れない。受験勉強の時期も映画館に通いつめた。試験直前だけはさすがに控えたが、終われば連日足を運んでいた。映画館の空気が好きだったのだろう。煙草の煙が充満する館内、汚いトイレ、壊れかけた椅子、居眠りの鼾、クチャクチャお菓子を食べる音、スピーカーから流れる大音響とスクリーンに映し出される別世界、それらが渾然一体さね。特に場末の映画館は哀愁が漂っていた。客のまばらな映画館でふんぞり返って名画を鑑賞するのも乙だった。
今はすっかり映画館から遠のいてしまった。何故かしら、行きたいとも思わない。あの空気が嫌いになったのも一因か。それに、映画館もイメージを一新して妙に上品ぶった雰囲気になってしまったみたい。殺人や不倫、戦争、悲恋、そうした映画をゆったりした椅子に腰掛けて見るには抵抗がある。ゆったりした椅子では映画と一体になれないし、身を乗り出せないだろうに。いっそ家でゴロリと横になってTVを見ていた方がまだマシさ。映画館に上品はあまり似合わない。ポプコーン片手が似つかわしい。








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